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京都地方裁判所 昭和57年(ワ)1477号 判決

原告

奥田聖

右訴訟代理人

一岡隆夫

被告

京都府

右代表者知事

林田悠紀夫

右訴訟代理人

香山仙太郎

右指定代理人

廣啓司

外三名

被告

株式会社大阪読売新聞社

右代表者

坂田源吾

右訴訟代理人

塩見利夫

山本忠雄

山口孝司

東幸生

松本藤一

被告

株式会社産業経済新聞社

右代表者

鹿内信隆

右訴訟代理人

渡邊俶治

主文

一  被告株式会社大阪読売新聞社、同株式会社産業経済新聞社は原告に対し、各自二〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社大阪読売新聞社は、原告に対し、二〇万円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告株式会社大阪読売新聞社は、原告に対し、別紙(一)記載のとおりの謝罪広告を同社発行の「読売新聞」大阪本社全域版朝刊に、被告産業経済新聞社は、原告に対し、別紙(二)記載のとおりの謝罪広告を同社発行の「サンケイ新聞」大阪本社全域版朝刊に、それぞれ別紙(三)記載のとおりの条件で一回掲載せよ。

四  原告の被告京都府に対する請求及び被告株式会社大阪読売新聞社、同株式会社産業経済新聞社に対するその余の請求はいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の二と被告株式会社大阪読売新聞社、同株式会社産業経済新聞社に生じた費用を被告株式会社大阪読売新聞社、同株式会社産業経済新聞社の連帯負担とし、原告に生じたその余の費用と被告京都府に生じた費用を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告京都府(以下「被告府」という。)は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告府は、原告に対し、別紙(四)記載のとおりの謝罪広告を、別紙(五)記載のとおりの要領で掲載せよ。

3  被告株式会社大阪読売新聞社(以下「被告読売」という。)及び被告株式会社産業経済新聞社(以下「被告産経」という。)は、原告に対し、各自金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告読売は、別紙(六)記載のとおり謝罪広告を、別紙(七)記載のとおりの要領で掲載せよ。

5  被告産経は、別紙(八)記載のとおりの謝罪広告を、別紙(九)記載のとおりの要領で掲載せよ。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  第一項及び第三項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一請求原因

1  原告の社会的地位

原告(昭和二二年一月一九日生)は、株式会社日経住宅センター(以下「日経住宅センター」という。)の代表取締役をつとめ、同時に、サロン風英会話教室(インターナショナルメンバーズクラブ・ピーターパン)を主宰して、社会的、経済的活動をしていたものである。

2  原告の逮捕等

右会社の従業員であつた土川俊男(以下「土川」という。)は、昭和五七年四月一七日午前五時ころ死亡したが、京都府警本部(以下「府警本部」という。)は、不当にも確たる根拠もないのに、原告が保険金を得る目的で同人を交通事故に見せかけて殺害したとの疑いを持ち、これが捜査に利用する意図のもとに詐欺被疑事件で同年五月二〇日原告を逮捕した。

3  原告逮捕に伴う報道発表

府警本部は、所属の小杉修二刑事部長(以下「小杉部長」という。)を通じて右逮捕の当日、確たる証拠もないのに原告が保険金を得る目的で土川を交通事故に見せかけて殺害した容疑者であるかの如くに新聞、テレビ、ラジオ等の報道関係者に発表した。

4  原告逮捕の新聞報道

(一) 被告読売

(1) 被告読売は府警本部の発表を受け、当日付夕刊もしくは翌日付朝刊において、社会面上段から八段抜きで「社長を別件で逮捕」「社員怪死、事故偽装を追及」「保険2億円契約」「会社名義、短期に5口」との見出しを付して、原告の上半身(三段抜き)の写真とともに原告が「交通事故に見せかけた偽装殺人の疑い」をかけられて「京都府警捜査一課」に「別件の詐欺容疑で逮捕、自宅など六か所を捜索」された旨の記事を掲載してその全販売区域に頒布した。

(2) 更に被告読売は同月二一日付朝刊において、社会面上段から六段抜きで「京都の社員怪死、奥田、まるで詐欺師」「十数人から一億円」「工費踏み倒し、客の不動産食う」との見出しを付して、原告の顔写真とともに「社員の不審死事件に絡み、京都府警捜査一課に」「別件の詐欺容疑で逮捕された」原告が「ほかにも一億円近い詐欺まがいの事件を起こしていることがわかつた」旨の記事を掲載し、その全販売区域に頒布した。

(二) 被告産経

被告産経も府警本部の発表を受け、当日付夕刊もしくは翌日付朝刊において、社会面上段から八段抜きで「事故死の社員に保険金2億」「社長を別件逮捕」「偽装殺人の疑いも」との見出しを付して、原告の顔写真とともに「不動産会社の社員が血まみれになつて倒れており、間もなく死亡した事件を捜査中の京都府警捜査一課と松原署」は、「この会社員に総額二億一千万円の生命保険をかけていた」社長である原告を「別件の詐欺容疑で逮捕、この会社員の変死事件についても追及する」旨の記事を掲載し、その全販売区域に頒布した。

5  損害

(一) 府警本部関係

(1) 府警本部の報道関係者に対する前記発表により、同関係者をしてその旨報道せしめ、世人をして原告が殺人犯人ないしその嫌疑濃厚との印象を持たせるに至つた。このため原告の人格に対する社会的評価が著しく低下すると共に経済的信用も失墜し、その影響は親、弟妹、親戚にも及んでおり、原告がこれにより物心両面にわたつて被つた損害は測り知れないものがあるうえ、現在においても殺人犯人ないしその嫌疑濃厚との名誉毀損の状態が存続している。

(2) 以上により原告が被つた当面の精神的損害の内金として金三〇〇万円が相当であるものの、更に原告の名誉回復の方法として請求の趣旨第二項記載のとおりの謝罪広告を掲載させることが相当である。

(二) 被告読売及び同産経関係

被告読売及び同産経の各記事は、いずれも原告が実質的には殺人容疑者として逮捕された旨の虚偽の報道と評すべきであり、仮にそうでないとしても同報道の結果、原告が殺人犯人ないし殺人の嫌疑濃厚との印象を世間一般に強く持たれることになつたほか、被告読売の記事は、原告が詐欺常習者であるかの如き印象をも持たれるに至つた。これらのため原告の被つた物心両面にわたつての損害が測り知れないものであること、現在も名誉毀損の状態が存続していることは、府警本部の項で主張したのと同旨である。

(2) そこで被告読売及び同産経の所為により原告が被つた当面の精神的損害の内金としては各金一〇〇〇万円が相当であるし、名誉回復のため請求の趣旨第四、第五項記載のとおりの謝罪広告を掲載させることが相当である。

6  結論

(一) 被告府関係

府警本部が原告の名誉を毀損する事実を発表して被告読売及び同産経に報道させた所為は、職務執行行為として公権力の行使にほかならない。

よつて、原告は、被告府に対し、国家賠償法一条、四条、民法七二三条に基づき、右精神的苦痛に対する慰謝料として金三〇〇万円及びこれに対する侵害行為がなされた日の翌日である昭和五七年五月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉回復のための措置として請求の趣旨第二項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

(二) 被告読売及び同産経関係

よつて、原告は、被告読売及び同産経各自に対し、民法七〇九条、七二三条に基づき、右精神的苦痛に対する慰謝料として金一〇〇〇万円及びこれに対する侵害行為がなされた日の翌日である昭和五七年五月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉回復のための措置として請求の趣旨第四、第五項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

二答弁

1  被告府

(一) 請求原因1(原告の社会的地位)の事実は認める。

(二) 同2(原告の逮捕等)のうち、日経住宅センターの従業員であつた土川が主張の日時ころ死亡したこと、府警本部が主張の日に詐欺被疑事件で原告を逮捕したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同3(原告の逮捕に伴う報道発表)のうち、府警本部が小杉部長を通じて原告逮捕の当日、報道関係者に発表したことは認めるが、その余の事実は否認する。

府警本部が発表したのは、原告の詐欺被疑事件についてのみであり、原告主張のような土川の交通事故死に伴う殺人容疑の別件逮捕の如き発表をした事実はない。そればかりか府警本部の小杉部長は、右詐欺被疑事件の発表の際に口頭により出席の各記者に対し、土川の死亡との関係について憶測の記事を書くことのないよう注意を促すと共に、右詐欺被疑事件による逮捕は決して土川殺人容疑の別件逮捕でないことを敢えて強調し、記事取扱いに誤りのないよう申し添えたものであるから、原告主張の報道記事について警察は全く関与していないのである。

(四) 同5(損害)(一)の事実は否認する。

2  被告読売

(一)請求原因1及び同4(原告逮捕の新聞報道)(一)の事実は認める。

(二) 同5(損害)(二)の事実は否認する。

3  被告産経

(一) 請求原因1及び同4(二)の事実は認める。

(二) 同5(二)の事実は否認する。

三被告読売及び同産経の抗弁

原告が指摘する被告読売及び同産経の本件各記事が、いずれも公共の利害に関する事実に係るものであることはいうまでもないところ、同被告らは、社会に生起する日々の事象を報道して国民の知る権利に奉仕する社会的報道機関として、右各記事を掲載・頒布することによりその責務を果したのであり、専ら公益を図る目的に出たものである。しかも、それらの記事は総て真実であるから、違法性がないし、仮に同記事が真実でなかつたとしても、同被告らにおいて真実であると信じ、かつ、そう信ずるにつき相当の理由があつたから、過失がない。以下本件に即して真実性等につき敷衍する

1  請求原因4(一)(1)及び同(二)の各記事について

(一) 日経住宅センターの従業員土川の死亡事故(以下「土川事件」という。)については、死体及び現場の状況から、交通事故に伴うひき逃げとするには不審な点が多く、ひき逃げを偽装した殺人事件の疑いが強いとの観点から、府警本部捜査一課が捜査を開始していたところ、日経住宅センターは原告が代表者で、土川のほか女子事務員一人だけの会社であつたが、約八〇〇〇万円の借財を抱えて昭和五七年一月に倒産したというのに、同年二月二三日から四月ころまでの短期間に、被保険者土川、保険金受取人日経住宅センター、保険金総額二億円余の保険契約を五社との間に締結していること、原告が土川の生前における最終接触者であつたことなどが判明し、捜査担当責任者らは、原告を偽装殺人の容疑者として内偵を進め、原告に引きねた(別件逮捕の容疑事実)があれば、それにより原告を逮捕して土川事件を解明したいとの意向を、被告読売及び同産経の記者らに示していた。そのうち府警本部は、原告主張のとおり原告を詐欺容疑で逮捕した当日、記者会見を行い、席上土川事件について原告を追及することを明らかにした。

右の事実を前提とする限り、請求原因4(一)(1)の被告読売の記事及び同4(二)の被告産経の記事は、いずれも事実そのものというべきである。仮に一歩譲るとしても、日々進展する刑事事件の報道にあつては、その記事から常識的に感得される事実と生起した客観的事実との間に、社会通念上同一性が認められる限り、該記事は真実というべきである。そうだとすれば、右各記事はなお真実性の範囲内にある。

(二) 仮に、右の各記事が真実でないとしても、被告読売及び同産経は、各記事の内容たる事実を信頼すべき捜査担当責任者からの取材と確実な資料に基づいて慎重に検討したうえで、これが真実であると確信して執筆し、記事としたものであつて、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があつた。

2  請求原因4(一)(2)の記事について

(一) 原告は、

(1) 小谷利子(以下「小谷」という。)を欺罔し同人から出資金及び貸金名下に一三〇〇万円を騙取し、

(2) 土地建物を第三者名義で取得し、真実は自己が注文主であるのに、衣川幸男(以下「衣川」という。)、田中三郎(以下「田中」という。)、深田幸雄(以下「深田」という。)、大槻伸明(以下「大槻」という。)、西沢俊雄(以下「西沢」という。)ら五名の建築業者に対して、右第三者が注文主であり、かつ、同人が信頼できる人物であるかの如く装つて、右衣川らをしてその旨誤信させ、表面上全く自己の名前を出すことなしに工事を施行させて代金を踏み倒し、右衣川に七五〇万円、右田中に三五〇万円、右深田に四五〇万円、右大槻に三〇万円、右西沢に二〇〇万円の損害を与え、

(3) 今村守重(以下「今村」という。)に対し、不動産を譲渡する意思がないのにこれがあるかの如く装つて、同人をしてその旨誤信させ、同人から手付金などの名下に四八〇万円を騙取し、

(4) 西田一郎(以下「西田」という。)に対し、資金調達の斡旋をするかの如く装つて、同人をしてその旨誤信させ、右西田所有の不動産の所有名義を原告名義に移転させたうえ、右西田の承諾なく右不動産を自己の資金調達のための担保として銀行等に提供し、もつて西田に二五〇〇万円以上の損害を与え、

(5) 岸本勝(以下「岸本」という。)に対しては、同人から騙取した同人の実印を冒用して同人名義で伏見信用金庫などから合計三六四〇万円を借り受け、右岸本に右金額の債務を負わせ

たものであるから、被告読売の本件各記事は総て真実である。

(二) 仮りに、本件各記事が真実でないとしても、被告読売は本件各記事について、その内容たる事実を事件関係者及び担当弁護士からの取材と確実な資料に基づいて慎重に検討したうえで、これが真実であると確信して掲載、頒布したものであつて、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があつた。

四抗弁に対する認否

抗弁冒頭の事実のうち、被告読売び同産経が本件各記事を専ら公益を図る目的で報道したとの点を否認し、同各記事が真実であつたとの主張及び同被告らにおいて真実と信じ、かつ、そう信ずるにつき相当の理由があつたとの主張は、いずれも争う。

右被告らは、世論を誤つた方向に湧き立たせ、判決を受ける前に自らの手によつて原告を断罪する意図のもとに、本件各記事を報道したものである。

1(一)  同1(一)のうち、日経住宅センターの従業員土川の死亡事故については不審な点が多いこと、日経住宅センターは原告が代表者で、土川のほか女子事務員一人だけの会社であつたこと、被告ら主張のとおりの保険契約が締結されていること及び原告が土川の生前における最終接触者であつたことは認め、日経住宅センターが約八〇〇〇万円の借財を抱えて昭和五七年一月に倒産したことは否認し、その余については知らない。

(二)  同1(二)の事実は否認する。たとえ原告を逮捕した府警本部の目的が土川事件を追及することにあつたとしても、府警本部は証拠がないと断定しており、証拠がないが故に別件で原告を逮捕しなければならなかつたのであるから、被告読売らには殺人容疑での逮捕であるとの印象や原告が殺人犯人ないし殺人の嫌疑濃厚との印象を一般読者に与えることのないように記事の内容を配慮する必要があつた。

2(一)  同2(一)の事実はいずれも否認する。小谷については、感情の行き違いから小谷が出資金の返還を迫り、詐欺だとして告訴したものにすぎず、欺罔して騙取したということはない。衣川及び田中については、原告から紹介を受けた施主井上が工期の途中で資金難に陥り行方不明となつた件で、何とかして請負代金を回収しようと企て、紹介者に過ぎない原告に目をつけ、原告が騙したという虚構の事実を主張しているものである。深田、大槻、西沢なるものに原告は損害を与えたことはなく、賠償を請求されたこともない。今村、西田については、その請求に全く理由がなく、岸本については、原告に名を貸すことを諒解しており、また、岸本名義の住宅ローンにはいずれも不動産が担保として入つており、その価値を控除すると負債はなく、岸本に損害を与えていない。

(二)  同2(二)の事実は否認する。被告読売は原告側からの取材を一切していないのであるから過失があることは明らかである。

第三証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の原告の社会的地位に関する事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、被告府に対する請求について検討する。

1日経住宅センターの従業員であつた土川が、昭和五七年四月一七日午前五時ころ死亡したこと、府警本部が同年五月二〇日詐欺被疑事件により原告を逮捕したこと、そして、同本部が右逮捕の当日、小杉部長を通じて報道関係者に対し、具体的な内容はともかくとして原告につき一定の発表をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  土川は死亡当日の午前四時二〇分ころ、京都市東山区内の路上に、重傷を負い瀕死の状態で倒れているのを発見され、病院に収容されたものの、前叙のとおり間もなく死亡した。捜査関係者は当初、轢き逃げ事故とみたが、右発見現場の状況や土川の解剖所見などから、原因は不明ながら同人が他の場所(第一現場)で受傷し、右現場に運搬放置された公算が大きく、轢き逃げ事故のほか、同事故を偽装した殺人事件の疑いもあるとし、間もなく府警本部は、所属の交通部及び捜査第一課の職員をもつて特別捜査班を組織し、基礎捜査として土川の足取りを辿ることを主眼において捜査を開始した。

(二)  右捜査の過程で、昭和五七年二月二三日から同年四月までの間に集中して、被保険者土川、保険契約者兼保険金受取人日経住宅センター、保険金総額二億円余の保険契約が保険会社五社との間に締結されていること、ところが、原告の個人企業ともいうべき日経住宅センターは当時、土川のほか女子事務員一人だけの会社で、同年一月に約八〇〇〇万円の負債を抱えて倒産していること、土川死亡の前夜原告が同人と会つているところ、その後の同人の足取りが掴めないため、原告が土川生前の最終接触者の立場にあつたこと、原告には金銭上のトラブルが数多くあり、民事訴訟を起されたり、詐欺の罪名で告訴されていることなどが判明した以外に、土川事件の解明に繁がる資料を収集することはできなかつた。従つて、土川事件が轢き逃げを偽装した殺人事件か、轢き逃げ事故にとどまるかの方向付けさえできないまま、府警本部としては原告を重要な捜査対象者として、その事情聴取の機会を窺つていた。

(三)  右の間にあつて報道関係者は、土川事件を変死事件と把握し、前叙のとおり事件に接着した時期に集中して土川に極めて高額の保険がかけられていたことなどが判明するにつれ、原告やその職場などについて独自に活発な取材活動を行つた末、次第に土川事件が轢き逃げ偽装の殺人事件で、原告をその犯人と疑う姿勢を強く示し、府警本部が何時どのような手続で原告に対する強制捜査に踏み切るかに注目していた。

(四)  折から府警本部(捜査第二課と太秦警察署)は、昭和五六年七月一〇日小谷利子が太秦警察署になした告訴に基づく原告の詐欺容疑が固まつたとして、同被疑事件に基づいて前叙のとおり原告を逮捕したのであつた。そして、これを逸早く知つた報道関係者の要請により、小杉部長のほか詐欺事件の関係で小西捜査第二課長、土川事件に言及する関係から高橋捜査第一課長が列席して記者会見を行い、小杉部長は右被疑事件により原告を逮捕した旨の発表をしたのであるが、当時報道関係者が土川事件と原告の逮捕を結びつけて報道する危険が多分にあつたため、捜査の衝にあるものとしてこの動向を抑制する目的で土川事件に触れ、「報道関係者が憶測している事実は一切解明ができておらず、土川事件が過失事件か故意事件かさえ不明であるから、保険にからんで原告につき推測に亘る記事は差控えたほうがよい。」と、先き走つた報道を戒める趣旨の勧告をした。なお、この機会に記者の質問に答えて、土川事件については今後も捜査が続行され、いずれ原告も調べるとの方針や日経住宅センターの負債額が示されるなどの遺取が交わされたものの、報道関係者側にとつて格別新しい情報の提供はなかつた。

以上の認定事実に反する〈証拠〉は措信するに足りず、他に右認定に反する証拠はない。

2原告は、府警本部が報道関係者に対する発表により、被告読売及び同産経をして原告が殺人犯人ないしその嫌疑濃厚との印象を持たせるような報道をさせたというのである。なるほど後に説示するとおり被告読売及び同産経の報道は、原告主張の趣旨によりその名誉を毀損するものであることは否定できないのであるが、府警本部の前認定の発表が被告読売及び同産経の右報道につき、広義の共同不法行為を構成すると解すべき理由はない。

3してみれば、その余の点について検討するまでもなく原告の被告府に対する請求は理由がない。

三次に、被告読売及び同産経に対する各請求について検討する。

1被告読売が請求原因4(一)、同産経が同原因4(二)のそれぞれ新聞報道をした事実は、原告と各関係被告との間で争いがない。

(一) そこで、請求原因4(一)、同4(二)の各記事が原告の名誉を毀損するものであるか否かについて検討する。なるほど、〈証拠〉によつても、右各記事が原告に殺人の嫌疑が濃厚であると直接的に報道したものとは認められない。しかしながら、新聞記事による名誉毀損の成否を判断するにあたつては、その記事内容や見出しの個々の正確を意味内容よりも、本文の内容のほか見出し、前文の内容、配置等を総合的に勘案し、一般読者の普通の注意、関心と通常の読み方を基準として当該記事から受ける印象によつて名誉が毀損されたか否かを総合判断すべきものである。そこでこれを右各記事についてみるに、〈証拠〉によれば、被告読売は、「社長を別件で逮捕」「社員怪死、事故偽装を追及」などの見出しのもとに(この点は争いがない)本文の大半を土川事件に関する記事にあて、原告が「交通事故に見せかけた偽装殺人の疑い」をかけられて、「京都府警捜査一課」に「別件の詐欺容疑で逮捕」された旨の記事を掲載して報道し、また被告産経は「事故死の社員に保険金2億」「社長を別件逮捕」「偽装殺人の疑いも」との見出しのもとに(この点は争いがない)、前同様本文の大半を土川事件に関する記事にあて、「京都府警捜査一課」は原告を「別件の詐欺容疑で逮捕、この会社員の変死事件についても追及する」旨の記事を掲載して報道したことが認められ(この認定に反する証拠はない)、右の見出し及び警察機関が原告に対して嫌疑を抱いていることに言及した本文を照らしあわせると、被告読売及び同産経の右各報道は、一般読者の多くにあたかも原告には殺人の嫌疑が濃厚であるとの印象を与えかねないものであり、右報道によつて原告の名誉が毀損されたものといえる。また、〈証拠〉によれば、右記事が読者に原告が詐欺常習者であるかの如き印象を与えることは明白であり、右記事の報道によつて原告の名誉が毀損されたものといえる。

(二)  ところで、民事上の不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、且つ、専ら公益を図る目的に出たものである場合、摘示された事実が真実であると証明されたときは、右行為には違法性がなく、また、その事実の真実であることが証明されなくても、当該行為者においてその事実が真実であると信じ、且つ、信じたことにつき相当の理由があると認められるときには、右行為には過失がなく、不法行為は成立しないものと解すのが相当であるので、この見地に立脚し以下本件について検討することとする。

(1) 本件各記事が、公共の利害に関する事実に係るものであることは、極めて明白であつて、この点につき贅言を要しないというべきである。

(2) そこで本件各記事が公益目的に基づき掲載されたものと認められるか否かにつきみるに、本件各記事のように公共の利害に関する事実の摘示であつて、記事の外形上公益目的によると見られる体裁を一応保持している場合には、他に格別の事情が存しない限り、社会に生起する日々の事象を報道して国民の知る権利に奉仕するという公益目的に基づくものと事実上推定されるから、公益目的を否定する側において反証としてこれを摘示した真の動機が公益目的によるものでない等の具体的事情の主張立証を要するものというべきである。

ところで、原告は、被告読売及び同産経は世論を誤つた方向に湧き立たせ、判決を受ける前に自らの手によつて原告を断罪する意図のもとに、本件各記事を掲載、報道したものであると主張する。しかしながら、原告主張のような意図を認めるに足る証拠はない。

よつて、本件各記事は被告読売及び同産経において公益の目的で掲載、報道されたものというべきである。

(3) 次に本件各記事の真実性について検討する。

(イ) 請求原因4(一)(1)及び同(二)の各記事について

抗弁1の事実のうち、日経住宅センターの従業員土川の死亡事故については不審な点が多いこと、日経住宅センターは原告が代表者で、土川のほか女子事務員一人だけの会社であつたこと及び原告が土川の生前における最終接触者であつたことは原告と被告読売及び同産経との間で争いがなく、以上の各事実、〈証拠〉を総合すれば、前記二の1に説示した各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そして右認定事実によれば、土川事件がそもそも轢き逃げを偽装した殺人事件であるのか、交通事故(轢き逃げ)に伴う過失致死事件であるのかさえ明らかでない段階であつたことは動かし難いところであつたから、右が殺人事件であることを前提にして原告に殺人の嫌疑が濃厚であるとの印象を与える本件各記事は、未だ憶測の域を出ないものというべきところ、他に本件各記事の真実性を担保するに十分な証拠もないから、本件各記事は真実であることの証明を欠くものと解さざるをえない。

そこで、被告読売及び同産経において本件各記事が真実であると信じ、且つ、信じたことに相当の理由があると認められるか否かについて検討する。いうまでもなく、報道機関だからといつて取材活動につき特別の調査権限が与えられているわけでなく、また、報道に要求される迅速性のために、その調査にも一定の限界が存することを考えれば、新聞報道において正確性がある程度犠牲になる事態が生ずることもやむをえない面がないとはいえない。しかし、今日の社会において新聞特に発行部数の多い新聞の影響力は絶大なものがあり、ひとたび新聞に本件で問題になつているような事実が報道されるや、その事実は真実のものとして一般読者に受け取られて流布され、事と次第によつてはとり返しのつかない結果が生ずるおそれも否定しがたいところであるから、いやしくも人の名誉を毀損するおそれのある事実、特に犯罪行為に関する報道については、慎重な取材と報道が要求され、迅速性を多少犠牲にしてでも、正確性を期すべきである。

右見地に立脚して本件についてみるに、被告読売及び同産経が本件各関係記事を真実であると信じたことは、前記認定の諸事実から推認するのに十分であるので、かく信じたことについて相当の理由があつたかどうか検討するに、〈証拠〉を総合すれば被告読売及び同産経の記者は捜査担当責任者らを精力的に取材して前記二の1に説示した事実を認識していたことが認められる。しかしながら、前認定のように小杉部長が記者会見の席上、原告の嫌疑については証拠が十分でなく、未だ解明されていないばかりか、そもそも土川事件自体が殺人事件なのか過失致死事件なのかさえ判明していない実情にある旨表明し、被告読売らの記者が右表明を認識していたことが認められることに鑑みるならば、被告読売及び同産経において前記二の1に説示した事実からは単なる主観的嫌疑にとどまることを認識しえたものといえ、他に右嫌疑を客観的なものとする証拠もない。

従つて、被告読売及び同産経が本件記事を真実と信じたことについて相当の理由があるものとは認められない。

(ロ) 請求原因4(一)(2)の記事について

〈証拠〉によれば、原告が小谷を欺罔して同人から出資金及び貸金名下に一三〇〇万円を騙取した事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信するに足りず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。しかしながら、その余の事実については、〈証拠〉によれば、同人の取材に対し、森川明弁護士、衣川、岸本の妻が被告読売の主張に副う内容の供述をした事実が認められるが、右取材は被害者とされている者ないしその訴訟代理人という被害者とされている者側からの一方的取材であること、控訴審判決において衣川及び田中の請求は棄却されていること(成立に争いのない甲第六号証)などに照らせば、右認定事実から被告読売の右主張事実を推認することはできず、他にこれを肯認する証拠もない。なお、被告読売は、およそ新聞は社会公共の報道機関としてその時々の社会の動きをとらえその時々の真実を報道するものであるから、報道に当たつてその段階における一定の時点の事実を事実としてそのまま報道したものである限り、その後の推移によつて報道事実と異なる発展結果を見たとしても、その報道は真実なる報道として正当であり、衣川及び田中についての報道は同人らの請求を認容した昭和五七年五月一三日の京都地裁判決(成立に争いのない丁第二号証)に基づいてなされたものであるから、報道時点の事実を事実としてそのまま報道したもので、真実なる報道として正当である旨主張するが、右京都地裁判決の理由を子細に検討すれば、原告が衣川らを欺罔したとの事実まで認定していないことは明白であり、被告読売の右主張は前提を欠き理由がない。以上のとおり、被告読売の主張事実の大半が認められないから、結局、被告読売の本件記事は真実であることの証明を欠くものと解さざるをえない。

そこで、被告読売において本件記事が真実であると信じ、且つ、信じたことに相当の理由があると認められるか否かについて検討する。被告読売が本件記事を真実であると信じたことは、前記認定の諸事実から推認するに十分であるので、かく信じたことについて相当の理由があつたかどうか検討するに、前記認定のとおり、本件記事は被害者とされている者側からの一方的取材に基づくもので、客観的総合的な裏付け調査等がなされていないから、真実と信じたことについて相当の理由があるものとは認められない。なお、被告読売は、司法の一翼を担い正義の実現を使命とする弁護士から取材したのであるから、捜査機関から取材した場合と同様、更に裏付取材によつて真否を確かめることなく、右取材に基づいて報道したとしても過失はないとするものの如くであるが、事件捜査について何ら特別の権限を有さない弁護士からの情報に事件捜査を担当する公的機関である捜査機関からの情報と同程度の信用性を認めるべき理由はなく、右主張は失当である。

2以上の説示のとおり、被告読売及び同産経の本件記事の掲載、頒布はいずれも民事上の不法行為を構成するものであるから、被告読売及び同産経は、これによつて原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。

3そこで原告の被つた損害について検討するに、〈証拠〉を総合すれば、原告が被告読売及び同産経の本件各記事の掲載、頒布によつて、その名誉を著しく毀損され、多大の精神的損害を被つたであろうことは容易に推認しうるところである。ところで、原告の被つた損害は①殺人犯人ないし殺人の嫌疑濃厚との印象を持たれたことと②詐欺常習者であるかの如き印象を持たれたことの二つの要素からなるものであるから、それぞれについて賠償すべき慰謝料の額を判断する。原告の地位その他本件記録に顕われた一切の事情を総合判断すれば、前記①によつて原告の被つた精神的損害に対する慰謝料としては二〇〇万円が、前記②によつて原告の被つた精神的損害に対する慰謝料としては二〇万円がそれぞれ相当である。右①による損害の原因である被告読売及び同産経の本件各記事は相関連し共同して右損害を生じさせたと認めるのが相当であるから、被告読売及び同産経は連帯して原告に対し二〇〇万円を支払うべき義務があるというべきである。更に、原告は慰謝料の請求と併せて謝罪広告の掲載を求めるので、以下この点について検討する。前記①による損害についてみるに、原告が土川事件について起訴されることなく現在まで相当の期間を経過したことによつて、毀損された原告の名誉も自然にそれなりの回復をみていることは予想できるが、殺人という重大事件の嫌疑であり、右事件の行方が現在でも明らかになつていないことに鑑みれば、①による有形無形の影響は原告の上に今なお残存しているものといえ、謝罪広告の必要性がある。次に前記②による損害についてみると、②による損害は①による損害より軽微であること、本件記事掲載から三年以上経過していること、前記のとおりの慰謝料額が認容されていることなど諸般の事情を総合判断すれば、原告に対する②による損害についての名誉回復の措置としては、右慰謝料の支払をもつて足り、それに付加してなお謝罪広告の掲載を命じる必要はないものというべきである。そこで、①による損害についての原告の名誉を回復させるための謝罪広告の内容について検討するに、本件各記事は「読売新聞」、「サンケイ新聞」に一回掲載されたにとどまること、前記のとおりの慰謝料額が認容されていることなど諸般の事情を総合判断すれば、被告読売に別紙(一)記載のとおりの謝罪広告を同社発行の「読売新聞」大阪本社全域版朝刊に、被告産経に別紙(二)記載のとおりの謝罪広告を同社発行の「サンケイ新聞」大阪本社全域版朝刊に、それぞれ別紙(三)記載のとおりの条件で一回掲載させれば足りるものと解される。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告読売に対しては主文第一、第二項記載のとおり慰謝料二二〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五七年五月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに主文第三項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める限度で、被告産経に対しては主文第一記載のとおりの慰謝料二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年五月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに主文第三項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める限度で、被告産経に対しては主文第一項記載のとおりの慰謝料二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五七年五月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに主文第三項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める限度においてそれぞれ理由があるからこれを認容し、被告読売及び同産経に対するその余の請求及び被告府に対する請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、七三条一項本文を適用し、仮執行宣言の申立については相当でないので、これを却下することとし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田 眞 裁判官小山邦和 裁判官大西忠重)

(別紙(一))

謝 罪 広 告

当社は、昭和五七年五月二〇日付読売新聞夕刊において、「社長を別件で逮捕」「社員怪死、事故偽装を追及」「保険2億円契約」「会社名義・短期に5口」の見出しで、社員土川俊男さんの不審死にからんで、代表取締役である奥田聖氏(京都市下京区西七条南東野町五二番地一)に交通事故に見せかけた偽装殺人の疑いがあるとの印象を与えかねない内容の記事を掲載しましたが、右記事はさしたる根拠もなく掲載したもので、当社の報道により奥田氏の名誉を著しく毀損し多大の御迷惑をおかけしました。

よつて、ここに深くお詫び申し上げるとともに、今後のこのような行為のないよう努力いたしますことを誓います。

株式会社大阪読売新聞社

代表取締役 務 壹 光 雄

(別紙(二))

謝 罪 広 告

当社は、昭和五七年五月二〇日付サンケイ新聞夕刊において、「事故死の社員に保険金2億」「社長を別件逮捕」「偽装殺人の疑いも」などの見出しで、社員土川俊男さんの不審死にからんで、代表取締役である奥田聖氏(京都市下京区西七条南東野町五二番地一)に交通事故に見せかけた偽装殺人の疑いがあるとの印象を与えかねない内容の記事を掲載しましたが、右記事はさしたる根拠もなく掲載したもので、当社の報道により奥田聖氏の名誉を著しく毀損し多大の御迷惑をおかけしました。

よつて、ここに深くお詫び申し上げるとともに、今後のこのような行為のないよう努力いたしますことを誓います。

株式会社産業経済新聞社

代表取締役 鹿 内 信 隆

(別紙(三))

掲 載 条 件

(掲載場所)

紙面第三面に縦四段抜き、横八センチメートル

(字格)

見出し部分及び各自社名・各代表者名は三号活守

本文は六号扁平活字

(別紙(四))

謝 罪 広 告

京都市山科区上花山坂尻町二の二土川俊男氏(当五二歳)が昭和五七年四月一七日午前四時二〇分ころ、京都市東山区大和大路五条上ル東入ル市道で負傷して倒れている状態で発見され、その後死亡した事件に関し、京都府警察本部は、貴殿を別件の詐欺容疑で逮捕した際、確固たる証拠もないのに貴殿が交通事故に見せかけた偽装殺人の容疑者である旨を報道関係者に発表し、そのため新聞、テレビ等がその旨を報道するに至り、貴殿の名誉を著しく傷つけ多大の御迷惑をおかけする結果となり、誠に申し訳ありません。

貴殿に対する殺人の容疑は晴れましたこと、京都府警察本部の不用意な発表であつたことを認め、ここにつつしんで謝罪致します。

昭和五七年  月  日

京都府

知 事 林 田 悠起夫

京都市下京区西七条南東野町二―一

奥 田 聖 殿

(別紙(五))

広告掲載の要領

一 広告を掲載する新聞名とその発行所

京都新聞(京都市 京都新聞社)

讀売新聞(大阪市 讀売新聞大阪本社)

サンケイ新聞(大阪市 サンケイ新聞大阪本社)

朝日新聞(大阪市 朝日新聞大阪本社)

二 広告を掲載する紙面と回数

いづれも全域版社会面記事下広告欄に各一回宛

三 広告の大きさ

縦三段抜き、横約八センチメートル

四 使用する活字

見出し及び原告・被告名の部分は二倍活字(ただし見出しはゴシック体活字)、本文、日付部分は一・五倍活字

(別紙(六))

讀賣新聞謝罪広告

一 当社は、昭和五七年五月二〇日付讀賣新聞夕刊において、「社長を別件で逮捕」「社員怪死、事故偽装を追及」「保険2億円契約」「京都、会社名義、短期に5口」の見出しで、社員土川俊男さんの不審死にからんで、代表取締役である奥田聖氏(京都市下京区西七条南東野町五二番地一)に交通事故に見せかけた偽装殺人の疑いがあり、京都府警捜査一課が、奥田氏を、実質的には殺人の容疑で逮捕した旨の記事を掲載しましたが、これはすべて事実に反します。

二 当社は、翌二一日付讀賣新聞朝刊において、「京都の社員怪死、奥田、まるで詐欺師」「十数人から一億円」「工費踏み倒し、客の不動産食う」の見出しで、奥田氏を実質的には殺人容疑で京都府警捜査一課に逮捕された者であるように説明し、その奥田氏が、「同課のその後の調べで、ほかにも一億円近い詐欺まがいの事件を起こしていることがわかつた。客の土地や建物を巧みに自分のものにしたり、工費を踏み倒すなど」「被害者は十数人に上つている」との記事を掲載しましたが、これはすべて事実に反します。

三 よつてここに謹しんで取り消すと共に、何らの根拠もなく奥田氏を殺人の被疑者扱いし、詐欺の常習者扱いにしたことにより、同氏とその御家族の名誉を著しく傷つけたことを深くお詫び申し上げます。今後は報道される側の立場に立ち細心の注意を払つて報道するように努力致します。

讀賣新聞社

代表取締役 務 壹 光 雄

(別紙(七))

掲 載 条 件

(掲載場所)

(1) 読売新聞大阪本社全域版朝刊三面左最上部に四段一〇センチメートル幅

(2) サンケイ新聞、朝日新聞、毎日新聞の各大阪本社全域版及び京都新聞全域版の各朝刊の社会面に二段一〇センチメートル幅

(字格)

(1)について

見出部分は縦書四段抜、初号活字

末尾の社名部分は二号活字

末尾の代表者名部分は三号活字

本文は六号扁平活字

(2)について

見出部分は三号活字

末尾の社名部分は四号活字

本文は六号扁平活字

(別紙(八))

サンケイ新聞謝罪広告

一 当社は、昭和五七年五月二〇日付サンケイ新聞夕刊において、「事故死の社員に保険金2億」「社長を別件逮捕」「偽装殺人の疑いも」などの見出しで、社員土川俊男さんの不審死にからんで、代表取締役である奥田聖氏(京都市下京区西七条南東野町五二番地一)に生命保険を狙つた偽装殺人の疑いがあり、京都府警捜査一課と松原署が、奥田氏を、別件の詐欺容疑で、実質的には殺人の容疑で逮捕した旨の記事を掲載しましたが、これはすべて事実に反します。

二 よつてここに謹しんで取り消すと共に、何ら根拠もなく奥田氏を殺人の被疑者扱いし、同氏とその御家族の名誉を著しく傷つけたことを深くお詫び申し上げます。今後は報道される側の立場に立ち細心の注意を払つて報道するように努力致します。

サンケイ新聞社

代表取締役 鹿 内 信 隆

(別紙(九))

掲 載 条 件

(掲載場所)

(1) サンケイ新聞大阪本社全域版朝刊三面左最上部に四段一〇センチメートル幅

(2) 読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の各大阪本社全域版及び京都新聞全域版の各朝刊の社会面に二段一〇センチメートル幅

(字格)

(1)について

見出部分は縦書四段抜、初号活字

末尾の社名部分は二号活字

末尾の代表者名部分は三号活字

本文は六号扁平活字

(2)について

見出部分は三号活字

末尾の社名部分は四号活字

本文は六号扁平活字

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